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大阪地方裁判所堺支部 平成8年(ワ)15号 判決

大阪府〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

山﨑敏彦

東京都中央区〈以下省略〉

(送達場所

大阪府堺市〈以下省略〉)

被告

山一證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

吉田清悟

主文

一  被告は原告に対し、金一八三万五八六一円及びこれに対する平成四年一一月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その五を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

原告の請求

被告は原告に対して金三五九万一七二二円及びこれに対する平成元年一二月一三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、証券会社である被告からワラントを購入した原告が、被告及びその従業員の違法な勧誘、販売行為により損害を被ったとして主位的には共同不法行為または使用者責任に基づき、予備的には債務不履行責任に基づき損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告はa大学医学部産婦人科の専任講師を勤める医師である。

2  被告は有価証券の売買、引受、募集売出し等を業務としている会社である。

3  ワラントとは新株引受権付社債の社債部分から切り離され、それ自体で独自に取引の対象とされている新株引受権ないしこれを表象する証券のことであり、発行会社の株式を一定の期間(権利行使期間)内に一定の価格(権利行使価格)で一定量購入することのできる権利(ないしその権利が表象された証券)である。

4  原告は、被告の担当者B(以下「B」という。)を通して次のワラントを購入した(以下「本件ワラント」という。)

購入約定日 平成元年一二月八日

銘柄 大阪ガス

発行価格 一〇〇円につき二三・七〇円

数量 一〇〇万円券一四枚

行使期限 平成五年一二月一〇日

購入金額 三三一万八〇〇〇円

支払日 平成元年一二月一三日

5  被告は、平成四年一一月二七日、本件ワラントを四万六二七八円で売却し、購入価格との差額は三二七万一七二二円である。

二  原告の主張

1  Bの行為による被告の不法行為責任

ワラントの危険性

ワラントの価値は株価と当該ワラントの権利行使価格の差額に引き受けられる株数を掛け合わせた額であり、この理論価格はパリティと呼ばれる。

たとえば、株価が八〇〇円の銘柄につきワラントでは六〇〇円で一〇〇〇株購入できるとすると、差額二〇〇円×一〇〇〇株で二〇万円がそのワラントのパリティとなる。

株価が一〇〇〇円となると差額四〇〇円でパリティは四〇万円となり、株価が八〇〇円の時の倍の儲となる。

ところが、株価が六〇〇円となるとワラントの価格はゼロとなり、投資金全額を失うこととなる。

実際には、このパリティにプレミアムが付加されて現実の取引となる。

このように、ワラントの価格は複雑なもので、値動きが激しく危険性を伴い、株取引を頻繁に行っているものでも良く理解できないものである。

ところが、Bは、ワラントについて原告に詳しい説明をすることなく「いいものがあります。儲かります。」等と述べただけで勧誘販売を行った。

担当者の欺罔行為、説明義務違反により、原告はワラントについて基本的には株式と同程度の危険性しか有せず株式よりも有利であると誤信して本件ワラントを購入したものである。

具体的な違法行為

(一) 断定的判断の提供

Bは原告に対して「必ず儲かります。損はさせません、ここが儲けどころです。」と言ってワラント価格が騰貴するとの断定的判断を提供してワラントの購入を勧めた。

断定的判断の提供は証券取引法(以下「法」という。)五〇条一項一号で禁止され違法なものである。

(二) 虚偽表示・誤導表示

Bはワラントが極めてハイリスクな投資商品であり権利行使期間が過ぎると紙屑になることを告げていないので法五〇条一項六号(原告は一項五号としているが六号の誤りであろう)に反する違法な行為である。

(三) 詐欺

Bは(一)、(二)の違反に加えてワラントの危険性を隠して原告に対して売買損三二七万一七二二円を与えたものであり、これはBの被告に対する詐欺行為に該当する。

(四) 説明義務違反

Bは原告に対して、本来極めて危険であり、仕組みが複雑なワラント取引について特に説明もせず、原告も理解しないまま本件ワラントを購入した。

ワラント販売の際の説明義務の内容としては、説明書交付、確認書徴収義務が先ず形式的に挙げられる。

このような書面すらない場合には証券会社の違法性が強く推定される。

ワラント取引について必要な説明の内容としてはつぎのとおりである。

(イ) ワラントの危険性について説明

期限の到来で無価値になる、価格が激しく複雑に動く、期限未到来でも無価値同然となることがあることなどの危険性についての説明。

(ロ) 当該ワラントの内容についての説明

権利行使価格、行使期限、権利行使価格と株価との関係、権利行使による取得株数、払込み代金についての説明。

(ハ) 取引の内容についての説明

相対取引であること、証券会社は仕入れ値と売値の差額が利益となること、取引所の市場価格というのは存在せず、業者間の気配値が発表されているにとまること、ワラントの時価を知る方法、売却の方法と手続内容の各説明。

(ニ) ディスクロージャーに関する事項についての説明

ワラントについてディスクロージャーは行われていないことの説明。

なお、公正取引慣習規則九号でワラントについての説明義務の規定が定められたが、これは当然のことを規則で確認したものである。

(五) 適合性の原則違反

投資勧誘にあたっては、投資者に正確な情報を提供し、投資者の意向、経験等に適合した投資が行われるように配慮するように定められている。

Bの原告に対する勧誘は右適合性の原則に違反している。

2  使用者責任

Bは被告の従業員であり、被告はBの行為に対して使用者責任がある。

3  被告の行為による不法行為責任

被告は、ワラントの危険性について顧客に周知させるようにBらを指導せず、むしろワラントを有利なものとして顧客に売るように指導していたものでありこれは原告に対する会社ぐるみの不法行為にあたる。

4  予備的主張

債務不履行責任

被告は、証券取引として原告との間で売買契約を結び取引をなしたが、その際、原告に対して証券会社としては正しい説明をして売買する義務があるのにもかかわらず原告に虚偽の説明をし、本来購入する意思のなかった原告に対して本件ワラントを購入させたものであり、これは売買契約上の債務不履行である。

5  損害

原告は前記不法行為によりBから本件ワラントを三三一万八〇〇〇円で購入し、平成四年一一月二七日に全部を四万六二七八円で売却したので、売買損として三二七万一七二二円となったが、右売買損はBの不法行為がなければ生じなかったものであり、右売買差額が損害となる。

6  弁護士費用 三二万円

損害合計 三五九万一七二二円

三  被告の主張

1  本件取引は、平成元年一二月八日被告会社堺支店のBに対して「大阪ガスの新発ワラントはあるだけ買う。」と言って同店の未応募分全部である大阪ガス新株引受権証券一〇〇万円券一四枚全部を引きとったものである。

原告が公募新株や公募ワラントなど新発物を欲しがっていたので紹介をしたところ、新発物は大抵儲かっていた時代のことで原告が飛びついたにすぎないものでありBが勧めたものではない。

原告は大学医学部卒であり大学医学部産婦人科専任講師という最高の知識水準にあるものであるにもかかわらず無知蒙昧を装っているが、原告は大和証券、日興證券、ユニバーサル証券などにワラント買付による損害賠償請求の訴を提起しており、原告は商品内容を知りながら株価の上昇を見込んでワラント取引をしたものであり、結果的にはその思惑が外れて損をしたにすぎないものである。その後、予想し得ないような株価市場の暴落のため、大阪ガスの株価暴落によりワラント取引について損失を蒙ったとしても、原告の思惑が外れたにすぎずBの勧誘行為とは何ら因果関係はない。

断定的判断の提供については、必ず儲かりますと断定的判断を提供したことはない。

虚偽表示・誤導表示、詐欺については否認

説明義務違反について

Bは、原告に対して本件ワラントの行使価格や行使期限、行使期間満了での権利消滅の点については注意的に告知したが、原告は「分かっている、分かっている」と株価上昇を確信して気にも止めない様子であった。

原告は、平成元年一一月末までにはユニバーサル証券からワラント取引の説明書の交付やリスクの説明を受けているのであるから、ワラントのリスクについては十分に知っていたのであり、本件当時ワラントリスクについての説明は既に不要な投資者であった。

説明書の交付については、平成元年一二月八日当時、国内ワラントの公募ないし買付の取次に関し説明書の交付義務は制度上はない。

日本証券業協会におけるワラント取引に関する説明書の交付と確認書の徴求措置は、外貨建ワラントについては平成元年四月一九日から、国内ワラントにつき平成二年四月一日からである。

2  時効

仮にBの行為が不法行為になるとしても、原告は平成三年九月ないし一〇月(遅くとも平成四年六月末まで)にはワラントについてのテレビ、新聞、週刊誌などの大々的報道により右の事実関係を知るにいたったのであるから、原告の不法行為に基づく請求は三年の消滅時効にかかっている。

四  被告の時効の主張に対する原告の主張(時効中断)

原告は平成七年七月一四日到達の内容証明郵便により被告に対して本件の損害賠償を求める旨通知しているので時効は中断している。

五  争点

1  被告担当者による勧誘の違法性

2  時効の成立及び時効中断について

第三  争点に対する判断

証拠(甲一の一、二、二ないし一二、一三の一、二、一四の一、二、一五の一ないし三、一六ないし一八、乙一の一、二、二の一ないし五、三の一ないし九、四、五の一、二、六の一、二、七ないし一四、一五の一ないし三、一六、一七の一、二、一八、一九、証人B、原告本人)によれば以下のとおり認められる。

一  勧誘行為の態様について

1  原告は医師であるが、証券取引を始めたのは昭和六〇年からであり、原告が株式に投資した資金は全部で五〇〇〇万円ぐらいである。本件ワラントを購入する以前に原告は次のワラントを購入している。

(一)

契約日 平成元年一一月二二日

銘柄 シャープ

購入金額 四四七万四八五〇円

証券会社 大和証券

(二)

契約日 平成元年一一月二七日

銘柄 日立電線

購入金額 九九万六〇〇〇円

証券会社 大和証券

(三)

契約日 平成元年一一月二七日

銘柄 住友化学

購入金額 八二九万一五〇〇円

証券会社 ユニバーサル証券

(四)

契約日 平成元年一一月二九日

銘柄 三菱重工

購入金額 一三八一万三〇三一円

証券会社 ユニバーサル証券

原告は本件ワラント取引後も平成二年五月二九日頃まで被告やユニバーサル証券、日興証券からワラントを購入していた。

2  被告の従業員で原告を担当したBは、昭和六三年三月京都外国語大学を卒業し、同年四月被告会社堺支店に入社し、平成四年に神戸支店に転勤した。

Bと原告との間での証券取引は、本件ワラント取引より以前は、日本航空の公募二〇〇株の取引がある。

Bが原告とワラント取引の話をした時期は、Bが入社二年目であり、Bにとってはワラントを売る最初の機会であった。

Bは、平成元年一二月八日頃、夜に原告に電話し、本件ワラントについて行使価格、払込期限、募集価格及びワラントは株価が上昇すれば実際価格よりも高く評価され、株式を購入するよりも高い投資効率が得られるが、逆に株価が下落した際には値下がりも大きい、行使期間をすぎればゼロになる事を説明した(乙七、B証言)、と供述している。

これに対して原告は、Bから電話で「大阪ガスの新発ワラントがあります、今買っておくと必ず儲けることができます、安心して買ってください。先生のような資金の豊かな方にしかお勧めしない商品です。」と言われ、要らないと答えた。再度、一二月一二日にBから電話があり「先日のワラントを一四枚取りました。送金して欲しい。」との電話があり、Bは「決して損はさせません、もし損がでるようでしたら全額お返しします。」と言ったと供述している。

原告とBの間の本件ワラント取引の際の説明内容については、電話でのやりとりであるので、どちらが真実を述べているのか明確な証拠がない。

Bが証言及び経緯書(乙七号証)記載のとおりの説明をしたとすれば、右説明にはかなりの時間を要するものであり、Bは二〇ないし三〇分で説明したというが、その程度の時間をかけて説明したか疑わしく、また、Bは仕事としてワラントを扱うのが初めての経験であり、平成三年一一月頃までに原告以外にワラント取引をしたことがないこと(平成九年三月二四日付B調書三九項)、証言内容から当時ワラントについての知識が不十分であったものと推定されること、更に、売却後の本件ワラントの処理についての記憶が極めて曖昧であることと比較すると、前記の証言のとおり、本件ワラントについて、行使価格、払込期限、募集価格及びワラントは株価が上昇すれば実際価格よりも高く評価され、株式を購入するよりも高い投資効率が得られるが、逆に株価が下落した際には値下がりも大きい、行使期間をすぎればゼロになる事をきちんと全部説明したとは認められず、Bの証言は直ちに信用できない。

また、原告はBからワラント取引についての説明書や、パンフレットを受取っていない。

この点についてBは、本件ワラントを原告に売るに当たり説明書を交付しようとか、パンフレットをもって行こうとかのつもりはなかったか、との質問に対して「私はありませんでしたし、上司からすぐに言われたこともなかった。」と証言しており(平成九年二月一〇日付B証言調書九八項)、本件ワラント取引当時、ワラントについての説明書が被告またはBから原告に対して交付された事実は認められない。

なお、原告は被告以外の証券取引をしていたが、その取引においてワラントについての説明を受けていたかとの点については、ユニバーサル証券とのワラント取引では「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」に署名して返送している(甲七)。

しかし、原告はその中身である「外国新株引受権証券の取引に関する説明書」(乙八)は受取っていないと供述している。

この点については、原告がユニバーサル証券に対して損害賠償を求めた裁判(大阪地方裁判所平成八年(ワ)第二四五号)では、判決書によれば、原告は前記確認書及び説明書を同時に受取っていると認定している(乙一六)。

右認定が正しいか否かは、本件と事案を異にしているので判断できなく、原告がユニバーサル証券との間のワラント取引により、ワラントの内容について十分な知識を有していたとは直ちに認めることはできない。

本件ワラント取引の後において、ワラント取引をしていた証券会社である大和証券に対する平成二年一月五日付けワラント取引に関する確認書(甲五)があるが、原告は右書面の署名部分はX作成と主張している。

日興證券株式会社との間のワラント取引では、平成二年四月二三日付「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(甲八)に署名押印している。

大和証券株式会社との間では、平成二年四月一一日付ワラント取引に関する確認書(甲六)について署名押印しているが、確認書が送られてきたのは同年九月頃である、と原告は供述している。

いずれも本件ワラント取引から後であるので、原告が被告とワラント取引を開始するにあたり、原告がワラントの内容について認識していたと推定する根拠とはならない。

二  Bの勧誘行為の違法性について

1  適合性の原則について

原告は医師であり、知的程度も高く、本件ワラント取引以前も証券取引を繰返しており、原告に本件ワラント取引を勧めるについて適合性の原則に反するものではない。

2  断定的判断の提供について

Bが「今買っておくと必ず儲かります」と断定的判断を提供したと原告は主張し、被告は前期乙七号証のとおり説明したと主張する。

いずれにしても電話での会話のみであり判然としなく、経験則上同様の勧誘を証券会社の担当者が述べることがあることは認められるが、本件でもそのような勧誘があったことを認めるに足りる証拠はない。

3  虚偽表示、誤導表示、詐欺について

虚偽表示、誤導表示、詐欺の主張については前記断定的判断の提供と同じ理由で右事実を認めるに足りる証拠はない。

三  説明義務違反について

証券取引はリスクを伴うものであるが、投資家が自己の利益追求を目的として行う経済活動であり、投資を行うについての情況や資料は投資家自身によって調査、収集して自らの責任で当該取引の危険性の有無程度を判断して行うべきものである(自己責任の原則)。

しかしながら、証券会社と一般投資家との間では、証券取引についての知識、情報につき質的な差があり、証券会社は、一般投資家に対し、投資商品を提供することにより利益を得る立場にあるのであるから、証券会社が投資家に投資商品を勧誘する場合には、投資家が当該取引に伴う危険性について、的確な認識を形成するのを妨げるような虚偽の情報または断定的判断を提供してはならないことはもちろん、投資家の財産状態や投資経験に照らして明らかに過大な危険を伴うと考えられる取引を積極的に勧誘することを回避すべき注意義務を負うものである。

また、一般投資家に内容が複雑で危険性の高い投資商品を勧誘する場合には、当該投資家が、その商品の取引に精通している場合を除き、信義則上、投資家の意思決定に当たって必要な当該商品の内容、当該取引に伴う危険性について説明する義務を負うこともあるというべきである。

右の前提から本件ワラント取引についての説明義務について判断すると、前記のとおりワラント取引は危険性が伴うのであるから取引を勧めるにあたり電話による一回きりの説明では、原告がワラント取引について十分に理解することは困難であり、説明書等文書による説明も必要である。

被告は、日本証券業協会による国内ワラント取引についての説明書の交付と確認書の徴求措置は平成二年四月一日からであると主張するが、右は本件ワラント取引当時説明書の交付が必要でないとの根拠にもならず、かえってその必要性を裏付けるものであり、被告の説明書の交付は必要ないとの主張は理由がない。

そうすると、本件ワラント取引は、購入時及びその直前直後の時期に説明書等の交付を受けることもなく、口頭の説明も十分ではないのであるから、本件取引では原告に対して説明義務を尽くしていないことが認められる。

四  時効について

原告がBの勧誘行為の違法なことを知り得た時期については、原告は平成四年九月ころ「証券一一〇番」に電話したと供述しており、同時期ころには知り得たものと認められるので、消滅時効の起算点は同時期ころであり、前記の如く平成七年七月一四日に催告をし、平成八年一月一二日に訴訟提起しているのであるから、時効の進行は中断しており、被告の時効の主張は理由がない。

五  過失相殺

ところで、原告は、昭和六〇年頃から証券取引をはじめており、株式に投資した金額も五〇〇〇万円にもなり、証券取引については経験もあるところ、被告とのワラント取引の前にも他の証券会社とワラント取引を始めており、ワラント取引の内容について知る機会があるのであるから本件取引開始に当たっても、Bにワラントの危険性について更に詳しく聞くとかして僅かの注意を払えばワラントの危険性をより具体的に理解できたのである。

また、本件取引後ではあるが、被告会社や他のワラント取引をしている証券会社から、ワラント取引の確認書やワラントの説明書を受取っており、ワラント取引の内容も認識したにもかかわらず本件ワラントの処分についてはBに任せ、自らの責任に於いての判断をしなかったこと及び前記認定の本件勧誘行為の違法性の程度その他の前記認定の諸般の事情を考慮すると過失相殺として、本件取引により原告の被った損害額の五割を減じるのが相当である。

六  責任

Bは被告の従業員であり、前記勧誘行為は被告の事業の執行としてなされたものであるから、被告は民法七一五条の使用者責任がある。

本件ワラント取引について、被告が会社ぐるみで行っていた違法な取引であると原告は主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。

七  損害

原告は本件取引により三二七万一七二二円の損害を受けたのであるから、原告の本訴請求のうち前記割合にて過失相殺した一六三万五八六一円が損害として認められる。

八  弁護士費用

本件訴訟を追行するについて弁護士費用が必要であり、右も本件についての損害である。

本件事案からして弁護士費用としては二〇万円が相当である。

九  附帯請求について

本件における附帯請求の起算日は、本件ワラントが売却により損害が発生しており、同日をもって損害発生時とすべきであるので、平成四年一一月二七日を起算日とする。

第四  よって、原告の本訴請求は、被告に対して金一八三万五八六一円及びこれに対する平成四年一一月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払う限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 島川勝)

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